切れ端

trash帰宅すると、くしゃくしゃになったノートの切れ端を女房に手渡された。
亡くなった母親の引き出しを整理していたら、奥のほうから出てきたらしい。
俳句らしきものが走り書きされていて、内容から見ると11年前に父が逝った後あたりのものらしい。
遺影の前に供えるとおふくろさまも恥ずかしいだろうから、自分が持っていることにした。

う~ん

アイスクリーム、小さなスプーンで3つ。
ヤクルト、半分くらい。
水、30c.c.
小さな氷のかけら、2つから3つ。

体温、夜8度ぐらい。氷枕と腋窩、鼠径部を冷やして6度5分ほど。
寝汗をかいて下着交換1日2度から3度。

訪問看護で1回20分ほどの点滴を1週間。

相変わらず問いかけには反応しない。
聞こえてはいるが、応えることを「拒否」している。
タイミングが合えば、かすかに首を縦横に振って応える。
もっと調子がいいと、声に出す。
ただし聞き取れるほどの声ではない。

昔の歌を歌うと、聞き取れぬほどのハミングでついてくる。

この一週間でずいぶん痩せた。

プライド

認知症でも心はものすごくナイーブなんだ。
この数日、そんなことに気が付いた。

1週間前のデイケアから戻って以来、お袋さまの様子がなんか違うのだ。
ひとりで食事ができなくなったし、女房殿が口元に運ぶスプーンも受け付けなくなった。
食べられなくなったのではないような気がする。
食べることを拒否しているような、そんな気がする。

口元を真一文字に閉じ、目をつぶり、頭を垂れている姿は、かかわってくれるなとすべてを拒否しているように見える。

呼びかけにも応答しない。
聞こえているのに応えない。

ベッドの中では両腕を胸の前に組んで小さくなっている。

極端に具合が悪いわけでもない。
なんかものすごく嫌なことがあったんだと思う。

通所先であったとは思いたくないが、われわれのちょっとした言葉や声のトーン、笑い声や怒った声、なにげない動作が、もしかしたら彼女の心を傷つけたのかもしれない。
今まで一緒に暮らしてきて、そんな場面があって、気づかずにあるいは気づいても、笑って過ごしてきたんだ。

認知症って心はものすごくナイーブなんだ。
認知症だってプライドはちゃんと持っているんだ。
そんなことに気が付いた。

だって知らなかった

「だれかいないの〜」

「………どうしたの〜」

早朝、寝床から、お袋様と女房殿のコール&レスポンス。
大声でやるもんだから、
うるさいったらありゃしない。

「だれもいないの〜」

「…きょうは日曜。
みんな寝てるの。
静かにしてね〜」

「あ〜、そう」

しばらく静かになったかと思ったら、

「日曜なんて知らなかった」
「日曜なんて知らなかった」
「日曜なんて知らなかった」

あん、なんで怒ってんだよ。

午前3時

あら、どうしたの?
私もそっちへ行っていい?
迎えに来て。
どうして迎えに来ないの?
ここどこ?
早く来て。
ここどこ?
ここどこ?
一体、誰としゃべっているんでしょうね。
午前3時前からゴングが鳴りました。
起きて声をかけたいのですが、体を動かすとあちこちが痛いので、クイックに動けません。
出逢いはスローモーション♫
中森明菜状態です。
ここどこ連呼が
徐々に激しさを帯びてくるので、
こらえきれずに
女房殿が床を抜け出し、
夢見たの?
まだ暗いからね。
も少し寝ようね。
珍しくすんなり納得して、
眠りについようです。
寂しいんですね。
孤独なんですね。
みんな歳とるとそうなるんです。
来月、親類の結婚式が遠方であって、
やむなくショートステイに3泊ほど予定を入れましたが、
なんか可哀想な気がします。
さてと、
今日は整形外科に行って、
レントゲン撮ってもらおうっと。
昨夜は寝返り打てなくて、
きつかった。
ということで、
みなさん、
おはようございます*\(^o^)/*
最近、ケガするの流行ってるからね。
みんな足元気を付けて歩こうね(^_-)

チータ

遊んできたので、今日はお袋様とお留守番。
なぜか365歩のマーチを延々と、

ワンツーワンツー
ワンツーワンツー
ワンツーワンツー
ワンツーワンツー
ワンツーワンツー
ワンツー………………………

歌うはめになってなっております。

寝坊

最近夜更かし。
布団の中でスマホいじったりして。
12時過ぎたのに気づいて眠る。
ひと眠りしたころ気配に起こされる。
母親が誰かを呼ぶ声。
ベッドのきしむ音。
スリッパを引きずって歩く足音。
眠い目をこすりながら起きる。
母親をさとす。
なだめる。
懇願する。
そして怒る。
ベッドに寝かしつける。
自分も再び布団に入る。
母親が誰かを呼ぶ声。
ベッドのきしむ音。
スリッパを引きずり歩く足音。
妻が起きる。
母親をさとす、
なだめる。
懇願する。
そして怒る。
妻のその声で目覚める。
布団の中でもう少し睡眠を取ろうと努める。
障子越しの朝がやってくる。
うとうと眠りに入る。
目覚める。
思いっきり寝坊。

スリッパ

最近夜更かし。布団の中でスマホいじったりして。12時過ぎたのに気づいて眠る。ひと眠りしたころ気配に起こされる。母親が誰かを呼ぶ声。ベッドのきしむ音。スリッパを引きずって歩く足音。眠い目をこすりながら起きる。母親をさとす。なだめる。懇願する。そして怒る。ベッドに寝かしつける。自分も再び布団に入る。母親が誰かを呼ぶ声。ベッドのきしむ音。スリッパを引きずり歩く足音。妻が起きる。母親をさとす、なだめる。懇願する。そして怒る。妻のその声で目覚める。布団の中でもう少し睡眠を取ろうと努める。障子越しの朝がやってくる。うとうと眠りに入る。目覚める。思いっきり寝坊。

めげるんだぜぇ~

「ただいま~」

ん?声が無いゾ。

「ただいま~」と声を上げながら茶の間へ。
お袋さま、にこにこ笑って「おかえりなさい」。
ん?いつもと様子が違うゾ、ちょっぴりホッとする。
台所でシンクに向かっている女房殿の背に向かって「ただいま」。

「おかえり」

ん?この声のトーンは、ちとご機嫌斜め?
何かあったのかしらん。
さわらぬ神にたたりなしで、そのままスルー。
ササっと着替えを済ませて、茶の間のテーブルに着くと、
お袋さま、ニコニコしながらこうおっしゃる。

「なんだろ、つまンない顔して」
「そんなことないよ」
「つまんない顔してるよ。疲れたの?」
「うん、疲れたんだよ」

と、やり取りしているうち、お袋さま台所の方をそっと指差して、

「あのね、あの人に怒られたの」

そら来たゾ。

「なんか悪いコトしたんでしょ」
「な~んにも悪いコトしてないんだけどね。
どうして怒るのかわかンない」

なんで怒ったか、こちらには察しが付く。

「そうなの。困ったね」

と話は一応打ち切り。

時計が8時30分を回ってお袋さまご就寝の時刻。
そろそろ入れ歯外して休まなきゃね。
トイレはそっちじゃないよ、こっちこっち。
ホラ歩行器を使わないと危ないよ。
それはパジャマの上着じゃないでしょう。
じゃあおやすみ、まで約20分。
電気を消すとあっという間に爆睡。

こちらから聞くともなしに女房殿から今日の出来事が怒涛の如く。

今日は病院の日だったのね。
いつもの通り、朝から家に帰る家に帰るの一点張りで、
それでも病院に連れて行ったから、その間はまあ治まっていたの。
病院は急患があったとかで時間が大幅にずれ込んでしまって、
だいぶ待ってしまったんだけど。
ようやく時間が来て診察室の中に入ったら、
お母さんえらくハキハキしていてね。
先生が「どうですか?」と聞くと即座に「大丈夫です」、
「足痛くない?」と聞くと「痛くないです」、
「歩ける?」「歩けます」っていうのよ。
思わず歩けないでしょうって言っちゃった。
そしたらどうも病院には来たくないってことらしいのね。待たされちゃったしね。
で、病院のついでに親戚の○さんのところにお中元を届けなくちゃいけなくって、
お母さんには車の中で待ってもらって、ちょっと買い物に寄ったの。
そんで戻ってきたら、私が逃げたんじゃないかと思ってえらく興奮していたの。
でもなんとかなだめて、○さんところに行って、
お母さんと一緒に上り込んでお茶をごちそうになったんだけど、
それが普通に話すのよ。
でも、ご主人をおじいちゃんと間違って話してるからご主人には申し訳なかったわ。
でね、そんなにして一日動いて家に戻ってきたら、
また帰りたい帰りたいって言うのよ。
それがどんなにしても堂々巡りなんで、暑いし、イライラするし、私言っちゃった。

「ちょっと、黙ってて」

どうやら、お袋さまが怒られたというのはこの言葉らしい。
想像していた通りだ。
しようがないよ、一日中付き合っているんだし。
堂々巡りの不毛の会話は心が疲れ、そのうち折れる。
時々吐き出した方がいい。
でも、ストレスが残るのはその言葉を吐いた自分。
強烈な自己嫌悪だけが残る。
そんなわけで女房殿はめげていたわけです。
自分に怒っていたわけです。
まあ、こうして話を聞くことがケアになるのかなあ。
自分の場合は、こうして書くことがそうなるのかもしれません。

え?
もちろん、今朝もお家に帰りたいって言ってましたよ。
土曜日になったら連れて行くからも少し泊っていてくれとお願いしておきました。

 

バーチャル別れ話

先週金曜日のこと。
職場の親睦会がまちなかの居酒屋さんで6時30分から開催されました。
5時の終業のチャイムとともに次々と社員さんが退出していきます。
じゃあおさきにと、ボクも職場を後にいったん帰宅します。

家に入ると出迎えた女房殿がしかめつらでお出迎え。

「また?」
「ちょっとこんがらかって」

金曜日はお袋さまのデイ・ケアの日です。
お袋さまの頭の中は、この日は決まってカオス状態。

「どうしたの?」
「あのね、あっちの家に帰らないと」

(…またきたよ…)

「休みの日に連れて行くからここでゆっくりしてってよ」
「でも、ずーっとここにお世話になりっぱなしでしょ。
 今日は帰らないと」
「お願いだよ。
 ゆっくりしてってよ」
「だって、向こうのTちゃんも心配してると思うの」

(Tちゃんというのはボクの女房殿のこと)

「なに言ってんだよ、
 この人がTちゃんでしょう」

(お袋さまはおどろいた顔で…)

「あら、この人もTちゃんなの。
 おんなじ名前なんだね」
「そうでしょう、この人がTちゃんなんだから」

(自分でもこんがらかってきます)

「あのねえ、この人はボクのお嫁さん!」
「あら、結婚してんの」
「そうだよ」
「いやだこと、初めて聞いたわ」

(なにがなんだかわかりません)

「じゃあどうしたの、あっちの人とは?」
「ん?
 誰?」
「あっちのTちゃんに決まってるでしょう」

(?????)

「だーかーらー、」

(この辺から声が大きくなってきます)

「だーかーらー、あっちは無いの!
 こっちだけ!」

(ここで女房殿参入。
いいから出かけなよと腕でサインを送っています。
お袋さま首をかしげながら)

「わかんないなあ。
 あんたはこの人と一緒になったんでしょう?
 だったら、あっちの人とはっきりさせなきゃいけないでしょう」

(?????)

「あっちの人ときちんと別れて来いって言ってンの?」

(もう、こっちもおかしくなっています)

「そうに決まってるでしょう」

(ここで女房殿ふたたびサイン。
今、出ないと親睦会に間に合いません)

「わかった。
 じゃ、話をつけてくるから」
「あたりまえでしょう。
 ちゃんとしないでそんな馬鹿な話しないでしょう」
「はい、わかりました。
 申し訳ありませんでした」
「ったく、お酒を飲みに行ってる場合じゃないでしょう」

途中で話がこんがらかって、
あっちの家にボクの女房殿がいるにもかかわらず、
こっちのひとと結婚するなんてとんでもない。
きちんと話をつけて一緒になりなさい。
ということになってしまいました。

しまいにはお袋さまに
申し訳ないと頭まで下げる結果と相成りました。

ああ、ややこしい。