「ちょっと話していいかな」
また夢かと思いました。
囁くような声で、「ねえ、聞いていいかい」はっと思って飛び起きました。
夢ではありません。寝ている布団の足元でお袋様が腰をかがめてこちらを窺っています。
「何?トイレがわかんなくなった?」
「違うの。ちょっとこっち来て」
手招きして隣の部屋に行きます。
「どうした?また夢見たの」
「違うの。なんか寝ている間に七男(お袋様の弟)が泊まっていったらしいの。
あんた知らないかい」
知るはずありませんし七男叔父さんも来宅していません。
もちろん泊まってなぞ・・・。
「知らないよ」
「だってここにお布団を丸めて出ていっちゃったんだよ」
「ふ~ん」
こちらは眠いです。
「あのね、来る訳ないじゃん。
オレは昨夜11時に帰って来たんだよ。
そん時さ、母さん起きていたでしょ」
「うん。そうだっけ」
「起きてたの。で、今何時?時計見てごらん」
「さ、三時」
「そうだよね。その間に来る訳ないじゃん」
「そうかなあ」
お袋様は納得できない様子。
「あのね、うちには母さんと女房と自分の三人しかいないの。わかるでしょ?」
「うん、でもあれは夢じゃないよ」
「そうかい。夢だと思うんだけどなあ」
「そうかなあ。私また夢見たのかなあ」
「うん、だからもうベッドに入って寝なさい」
ようやくお袋様を納得させてベッドのもとへ。
「私、ここに寝ていいのかなあ」
自分のベッドの指差して不安そうなお袋様。
「そうだよ。ここは母さんのベッド」
「そうかい、そうだよね」
やっと状況を把握できたのかベッドの上に横になりました。
横になった体に毛布をかけようとしたら、また起き上がって
「父さんには、七男が泊まっていったこと黙ってようね」
「あのね、父さんは7年前に亡くなったでしょ。
七男叔父さんはそのもっと前に亡くなったでしょう」
「あ、そうか。そうだよね」
「わかった?じゃまだ外は真っ暗だから寝ましょ。おやすみ」
まだまだわかっていないようです。
自分はお袋様をベッドの上に寝せてから寝床に戻ったのですが、そのあと女房殿が起きて、眠れない、納得しきれていないお袋様と話をしていたようです。
最近特に夢と現実で混乱してしまうお袋様です。
でもこうして、亡くなった人と頻繁に会えるようですから幸せだと思っています。