会話の迷路に出口が無い

「うちの息子そっくり」
私の顔をじっと見つめながらお袋様。

「そうかい」
もう慣れっこなのでそのまま他人に成りすます。

「まだ迎えに来ないの」
「あら、迎えにくるの?」
「あら、迎えに来ないの?」そう聞かれるとこちらも困る。

「あのねえ、息子の顔忘れちゃった?」
「忘れるはずないでしょう」と気色ばむお袋様。
「オレが息子だよ」
「そんなわけないでしょう」とさらに気色ばむ。
「オレは母さんの息子だよ」
「そりゃそうでしょう。私の子供に決まってるでしょう」
「?!」

この辺で話が更におかしくなってくる。
もちろん、こちらの頭もおかしくなってくる。

「じゃ、オレは誰?」
「あんたはロクちゃんでしょう」
ロクちゃんというのはお袋様の弟の事で、もう17年前に他界している。
「ロク叔父さんは母さんの弟だよ」
「そんなわけないでしょう」 
「じゃあ、母さんには息子が何人いたの?」
指折り数えて。
「あんたでしょ、ロクちゃんでしょ、二人だよ。
ロクちゃん、帰ってこないの?」
「?!」

ここいらでようやく本人に戻してもらえたらしい私。
この後も延々と不毛の会話が続くと、いい加減こちらが参ってしまう。

少しいらついて、

「オレはねえ、母さんの息子の○○だよ。
ロク叔父さんは母さんの弟なの。
だって歳考えたらわかるでしょう。
ロク叔父さんが母さんの子供だったら、
母さんが・・・4歳ぐらいの時に産まなきゃなんないでしょう。
それにロク叔父さんはとうの昔に亡くなったよ」
などと言おうものなら、

「あら、ロクちゃん亡くなったの?
私、知らなかった。
誰も教えてくれないんだもの。
ホントにロクちゃん亡くなったの」と、
今は亡きロク叔父さんのほうにスイッチが切り替わり、
挙句の果てにパニックをきたし、
皺だらけの手で顔を覆い声を上げて泣き始めることになる。

毎日のように繰り返されることだけど、
こちらもうまく対処できなくなって、
それこそ泣きたくなってくるのです。