仲間はいいっ!

ホームのベンチで休もうと長いホームの端へ歩いていくと列車の来るにはまだ時間があるのに先客が座っていた。ただぼうっとあらぬ方向へ視線を向けたまま座っている先客は黒いオーバーコートの襟元から青い地に赤の模様の入ったマフラーを覗かせている。
そのマフラーの上に乗った顔、よおく見ればI藤氏ではないか。先方はこちらに気づかずにただただぼうっとしている。声をかけないのも失礼だが駅のホームで無我の境地に入っているのを起こすのも無粋だ。しばらく放って置くことにした。
彼と僕との距離は3メートル。
列車が来るアナウンスが入るまでの10分ほど、そのままの距離を保っていた。
時間も迫ってどうやら無我から覚醒したらしい。
知らぬ振りして乗車口の列に並ぶ僕の背中をちょんとつついてくる。
驚いた風を装って、やあどうもと当方しらばくれて挨拶を交わしていると向こうからC葉氏がやってきた。(きっとあの狭い喫煙室で一服してきたに違いない)
あとはI畑氏が来るだけ。

これから4人連れだってK市まで行こうというのだ。M子氏の企画した会に出席しようというのだ。
結局、列車が発車するまでにはI畑氏の姿は見えず3人で乗車した。
ほどほど込んでいるというのか空いているというのか3人散らばって座席に着くと、通路をすたすた行くのはI畑氏ではないか。それを見つけたI藤氏が背中から足早に追いかけていく。
まあいいさ、たった15分の旅だもの。向こうへ着いたら会えるだろうと鷹揚に構えて考え事を手帳に書き付ける。

駅から歩いて5分ほどの場所に、民芸酒房と銘打った居酒屋がある。なるほど引き戸を開けるとそれらしい雰囲気で外目より中が広い。ちんまりしたカウンターが左手にあって右手は広い板の間。天井も低く梁や柱も古びたものを使っている。
その奥に見知った顔が一人。次年度この地区の会長を務めるO原氏だ。以前一度だけ面識が有り、先方もこちらを覚えていてくれたようだ。
そのうち次年度専務理事予定者のO規氏が現れ、当の主催者のM子氏が現れしてミーティングが始まる。

このO原氏が次年度会長を務めるこの地区は県下でもっとも多い会員数を誇る。自分たちのF地区はそれについで会員数が多い。
多ければ多いなりに悩みがあって、O原氏、O規氏はその役を引き受けるに当たり随分と思案したものらしい。
学びを重視した会運動をどう組織付けるか、いかに会員の定着をはかるか、今までにないような新鮮さを会員に提供したい。熱を込めてしゃべられる様子を見ればよくわかる。
なかなか道のりは大変だろうと思うが、やって見なければわからない。
差し出がましいようだがひとつだけ自分の考えを申し上げた。
そう方針を立てたならばぶれないように自分の志を貫き通す覚悟を持たれたほうがよろしいと。
こちらのほうが先輩、多少の無礼はお許し願いたい。

ミーティングももうそろそろいいだろうという時分に、先ほど駅頭で分かれたC葉氏が今ものすごい勢いで売り出し中のゴールド氏と一緒に入ってきた。
続いて、県内各地区から見知った顔が続々と現れる。どうも酒のにおいが人を呼ぶらしい。卓上の書類をそそくさと片づけて、じゃあそういうことでと締まりのない締め方で宴会に移行した。

まずはC葉氏の温度で乾杯。
料理も続々と運ばれるうちに12人ほどの宴会のあちらこちらで話の渦ができる。
ともかく元気だ。そしてよく飲みよくしゃべる。卓上の料理が酒が急ピッチで皆の胃袋に収まっていく。しゃべるか、それとも飲むか食うかいずれかにすればいいものを。

面々の顔ぶれを見て気が付いた。
ひとつは、次年度に役員とならないのは自分だけだということ。ふたつめは次年度県専務理事となるM子さんの、実質的な初仕事だということ。このふたつに気が付いた。
そう気づくと、何かこう肩の荷がおりてほっとしたような反面、すこし、ほんのちょっぴりだが寂しいような気がした。
それを見透かしたのか次年度理事長のA子氏が、まだ4ヶ月もあります、終わったような気でいないでくださいねと、やさしくかつ厳しく話された。

早めにI畑氏と店を出て駅へと急ぐ。
どうやら先の列車は出発してしまったようだ。駅なかの休憩コーナーで缶コーヒーを飲みながら四方山話。お酒が入るとフランクになって何でも話せてしまう良い友だ。
時間間近になってホームへ上ると、後から追いかけてきたI藤氏とC葉氏、一緒になる。
なかなかいい飲み会だったねと短い反省をしているうちにあっという間に駅に着いた。
行きよりも帰りは早く感じるという原則はこの夜さらにそう感じた。別れがたかったということだろうが誰からも誘いの言葉は出ずに、駅頭で解散となった。
仲間はいいなあ。

2 thoughts on “仲間はいいっ!

  1. もう・・・この続きが読みたい!
    メール小説・・・ここから先、気になります。
    どうゆう展開になって行くんだろうと
    消化不良…ぐれちゃう。
    描写が面白いから 上・中・下刊で
    宜しく。

  2. C葉さん、毎度です!
    ですから、何度も言うように中も下もありませぬ。
    消化不良でぐれちゃってください!
    これで完結なのであります(^^;;
    小説C葉伝でも書こうかしらん。
    これだったら上、中、下が書けそう。

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