ほらふきジャスパー

ジャスパー・ギンズバーグは、ほらふきジャスパー。
ほらふきジャスパーが荒馬を乗りこなすのに
3日3晩かけてのトレーニング

ほれあそこにおるだろう。あの男。
へん、なんて格好だ。
あの乗馬服を身にまとい、小ぶりの頭にやたらでかいハットを乗せているやつさ。
あいつの名はジャスパー・ギンズバーグ。
みんな陰ではほらふきジャスパーで通っておる。

     
「そん時、馬が立ち上がった。俺を振り落とさんばかりにだ。
両の腿をぐいっと締めたよ。それでも暴れるんだなぁ、これが。
今度は思い切り後ろ脚を蹴上げてどうとも振り落とそうとする。まぁ並の男だったら、このあたりで終わりさ。

だけどさすがの俺もいささか苦労したよ。
今回だけは苦労するに違いないと3日前にトレーニングに入ったのさ。
念には念をってね。  何? 馬のじゃないさ、俺様のトレーニング。
駆け足か?とんでもない。
俺の足の速いのはみんなご存じだろうが、
ま、これは天性のもんでね。
馬を乗りこなすのに足の速さはいらないさ。
馬に乗るんだからね。はは・・・

いったい馬を乗りこなすのには何が必要だと思う。
腿の力かって?違う、違う。
そんなもの俺はとうに持ち合わせてるよ。  わからないか。それでは教えて進ぜよう。

必要なのは度胸さ。肝っ玉。これが無いと乗りこなせない。
ところがこの肝っ玉って奴も、ご存じの通り俺のは並じゃない。
その俺でさえ肝っ玉のトレーニングをしたんだよ。
それも3日もさ。

 

 
肝っ玉をどうやってトレーニングするんだって?
ははん。お前たちのように、煙草の灰が落ちてもびくっとする奴にゃあわかるめえ。
いいか教えて進ぜよう。
いったいどうしたら、肝っ玉を鍛える事が出来るかを。
何、そこの御人、どうするんだって?
何々?吊り橋を逆立ちして渡るんだと?
ははっ、笑わせるねぇ。
そんなものは肝っ玉のキの字もいらないねぇ。お前素人だな。  今日初めて俺の話を聞いたろう。
そこのご常連、話をしてやってくれ。吊り橋の上で逆立ちしながら小便をしたって話をさ。
きたない?とんでもない。吊り橋の上ってぇのはしょっちゅう風がある。
風下に向かってするのがこつだがな。上手くいったらきれいな虹がつくれるぞ。

話を戻すぞ。
肝っ玉のトレーニングの話。

1日目はバッファローを30頭ばかり捕まえた。  何をするって、そりゃ肝っ玉の薬に決まってるじゃないか。
大砲の弾にのって月旅行をしたときにもこの手を使ったがね。
そん時の話はどっかで本になってるらしいから、それを読むと良い。
もっとも、事実と大分違うが、別の機会にまた、ゆっくり話してやろう。

とにかくバッファローだ。
みんな、見たことが有るか。バッファローの肝。
なら、教えてやる。

     

 
大きさは、そうだなぁ。
ほれ、そこの男、お前さんの頭ぐらいさ。
そうそう、そこのご婦人。美しいご婦人。
肝を二つ並べるとちょうど、あなたのうるわしい胸のようです。
あちっ。
何も殴らんでもよかろうに。
ちと、例えがまずかったが。
さて、もとに戻そう。

肝っ玉を鍛える薬というのはバッファローの肝が材料だ。
無論、それだけでは作れんがな。  バッファローを30頭、しかも3才になったばかりの牡を28頭、同じく3才になったばかりの牝を2頭を捕まえることから始まる。

俺の愛用のラッパ銃に磨きを掛け、特性の弾薬を念入りに調整した。
並の人間では、これも使いこなせんだろう。

  バッファローという動物は鼻が利く。風下に立つことがまず第一だ。
そこで俺は、前日から天気を読み、翌日まだ星の出ているうちに、バッファローの営巣地が見下ろせる小高い丘に陣取った。

バッファローの営巣地では数千頭余りが身を寄せ合って、まだ眠りについておる。
リーダーとおぼしき奴が何頭か頭をもたげて警戒している。
俺は身を潜めてじっと時を待った。
  

  
東の地平線がうっすらと白み始めた。
鳴き声やざわめきが次第に大きくなってくる。
お天道様がきらっと光り始める。
バッファローはドドッと一斉にたちあがる。
そん時だ。
ラッパ銃の筒先を群のただ中に向けた。
磨き込んだスコープで一瞬のうちに3才の牡を見分ける。
ターンと一発、銃声とともにゆっくりと1頭、倒れるのが見て取れた。
  瞬間。群は雷鳴のごとき地響きを立て掛けだし始める。
ターン、ターン、ターン。
2頭、3頭、4頭。
と、群が向きを変え始めた。
俺の陣取る小高い丘の方へ向かってくるじゃないか。
その間も、ターン、ターン。
5頭、6頭、。一発必中。
スコープなど必要の無いほど群は近づいてきた。
丘のふもとから駆け上がってくる。
ドドッ、ドドッ、ドドッ。
先頭に立つ群の頭領に、俺はゆっくり照準を定めた。  ターン。これで3才の牡、7頭目。

ドドッ、ドドッ、ドドッ。
頭領を倒されて幾分勢いは弱まったものの、いまだ俺めがけて掛け上ってくる。
300メートル、200メートル、100メートル。
俺はいったん愛用のラッパ銃を方にかついだ。
そして、先頭を駆けててくる副頭領、今や群の新しき頭領となった1頭に目を付けた。
 

 
怒り狂ったバッファローは俺に向かって猛進してくる。90メートル、80メートル、70メートル、そして、60メートル。
50メートルに差し掛かかろうという時、先頭の新頭領は急にスピードを落とした。
群全体も同時にスピードを落とし、やがて俺の立つ位置から30メートル手前までくると、ぴたりと足を止めた。
新頭領の眼は相変わらず怒りに満ちている。前足の蹄でしきりに地面をかき、俺との1対1の決闘の間合いをはかっている。  聞こえるのはバッファローの群の激しい鼻息の音だけ。
やがて、ブォっと一声雄叫びをあげると俺に突進してくる。
先刻からおのれの眼力だけで勝負をしようと、俺は仁王立ちのまま、今やバッファローの群の新頭領となった若き牡牛の眼を見据える。ドドッ、ドドッ、足下から振動が伝わってくる。
若き牡牛の鼻息と鼓動が間近くなったとき、俺との間は1メートルだ。
そして、急に立ち止まった。長い長い眼力だけの戦いが始まった。  刻々と時間は経過し、すでに夕暮れ時になっていた。
頭上に星の出る時刻にはまだ早いが、地平に沿って数千の赤い星が光っている。怒り狂ったバッファローの群の眼だ。
そして俺の前に2つの赤い星、おそらく俺の眼も幾倍かの光を放ち、赤い月のようであったろう。
とっぷりあたりが暗くなった頃、俺の前の2つの赤い星は、急に明かりを落とした。そしてどおっとばかりに巨体が崩れ落ちた。
さしものバッファローの頭領も俺の眼力にはかなわなかった。
 

  
巨体がくずおれた瞬間、群は一斉に駆けだした。しかも俺のほうにだ。俺は肩から銃をおろしあらたに弾をこめ直すと、ねらいを定めると、
ターン、ターン。
バッファローの群は俺の30メートルほど前で、大きく2手に分かれ俺を挟み込むように駆ける。
俺はバッファローの群のただ中だ。右手へターン、ターン。左手へターン、ターン。左右に注意を払いながら、俺はきっちり牡28頭をものにした。
残るは牝2頭、群の最後尾を駆ける中に牝を見つけた。  ターン、ターン。
これで30頭。
さしもの俺も一気に力が抜けた。

群の去った土煙の中に、点々と残る黒い影。
俺のしとめたバッファローだ。

どうだい、これだけでも肝っ玉のトレーニングになるだろうが。
しかし、ここまでは気の利いた素人でも出来なくはない。
これからだよ、俺の話は。

《昔々こさえた話、今でもどっかに出てるかも》

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